2021-7-01
わいが生まれたのは、昭和。東京オリンピックの翌年だ。記憶に残るテレビの中では「カステラ1番 電話は2番 3時のおやつは文明堂―」のクマの人形が、踊っていた。が、おやつに文明堂のカステラを食べた記憶はない。覚えているのは、風邪で寝込んだ時にアワビの味噌汁を飲ませられていたこと。おいおい!かーちゃん!こういう時はプリンじゃねーのかと、心の中で叫んでいた。
おにぎりにも不満があった。なぜかいつもバサっとした海苔で握った、ジトっとした醤油のおにぎりで、あああ~これが田舎と言うものかと、食べるたびにテンションを下げていた。都会の子どもが食べているのは、上から読んでも下から読んでも山本山のパリっとした海苔で、しかもパリっと塩で握ったおにぎりであるはず。まあ一事が万事そんな思い込みで、わいは突き動かされるように大間を離れ、都会の女になっていった。
時は平成、わいは社会人。それなりに都会でぶいぶい言わせるようになった頃、両親が東京に来る機会があり、こりゃ都会の贅沢なごっつぉーでぎゃふんと言わせねばならんと、新宿の夜景ギラギラビルのレストランに。しゃぶしゃぶを注文したら、ぺらんぺらんの肉7枚で大層な金額。あっという間に食べ終わって父母はのたまった「大したごっとねーのー」。
さらに時は移る。わいは大間にUターンし、まちおこしゲリラとして覚醒。すっかり違いのわかる大人になった。新宿で「大したごっとねーのー」と言い放った両親に、今なら激しく共感できるほどに生まれ変わった。そんな令和なわいが、「世界でいちばん贅沢なおにぎり(自分比)」と胸張れるものが、これだ!あーー前置ぎ長がったなー。
これが世界一贅沢な「大間の幻の岩海苔おにぎり」。そうそう、母親が醤油で握っていたジトっとしたやつだ。海苔は、大間崎から見える弁天島の岩場で採れるもの。適度にあぶって醤油をちょこっと付けるだけで立派な酒のつまみになる、主役をはれる海苔なのだ。その岩海苔おにぎりの具として、大間産の塩ウニをのっこり入れる。ケチケチしてはいかん。瓶の半分くらい使う感じで、のっこり入れるのがポイント。これぞまさしく、世界一の贅沢おにぎりぢゃてりゃー!
厳寒の時期に、かっちゃたちが採りにいく弁天島の岩海苔。時化が多くてなかなか島に渡れないのと、採れる量がごく限られているので、幻と言わざるを得ない。今シーズンは、たぶん暖冬の影響で生育が悪く、ほとんど採れなかったと大間崎さつ丸のさつさんが言っていた。
お隣の風間浦村でかっちゃたちが採っている岩海苔もなかなかのもの。産地直売所「ふのりちゃん」で、すでにあぶってある岩海苔を販売しているので、代用してもいい。佐井村には、佐井産の岩海苔と塩ウニを使った「うにぎり」がある。観光施設津軽海峡⽂化館 アルサス(フードコーナー ちょこっと)で売っている。より贅沢感を味わうためには、隣の「手づくりマート」で塩ウニを買って、うにぎりにウニ増ししながら召し上がることをお勧めします。
食べるとこうなる。
めーーーー!!!
<参考>
大間語講座:大間生活に必要な単語の発音
https://yproject.co.jp/yakko/oomago1/
<文中に登場したお店>
○さつ丸商店(⼤間町⼤間⼤間平17-845/冬期休業)
さつ丸さんの岩のりは自家用で、販売しているものではありません。
○産地直売所「ふのりちゃん」(風間浦村蛇浦沢ノ黒18/冬期休業)
R3年度は土日のみ営業。営業期間中、随時乾燥のりを店頭販売しています。
○津軽海峡文化館 アルサス フードコーナー「ちょこっと」
(佐井村佐井大佐井112/通年営業)
「うにぎり」在庫がある限り。
「乾燥のり」在庫がある限り。例年夏で完売。
2021-7-2
佐藤 史隆 季刊あおもりのき発行人
私たちの食生活になじみ深い「海苔」ですが、名脇役とは言えど、主役とは言いづらいかもしれません。でも、「天然岩海苔」となると、違うオーラを発しているようです。
記事を読む