2022-8-31

本州最北のジオの話

グラフ青森 青森の暮らし編集部プロフィール

全長8kmにわたり地層が露出する「北部海岸」
 写真/下北ジオパーク推進協議会事務局
波食棚と呼ばれるユニークな形の岩場が広がる「ちぢり浜」
 写真/下北ジオパーク推進協議会事務局

<今回の深掘りキーワード>
「下北ジオパーク」

大地は太古の昔より火山や海水面の変動、波や海による浸食などによって、今もなお変化をし続けています。下北地域には独自の壮大な景観が数多く見られ、特に景勝地を含む海岸景観は、津軽海峡、陸奥湾、太平洋という特徴の異なる3つの海に囲まれた特異なジオ(大地)によるもの。自然が生み出した地形から地球の歴史をみることができ、そのような場所が守られるべき地質遺産です。

こうした地質・景観が大切に守られ、地域の自然・文化とのつながりと合わせて、教育や持続可能な経済活動に活用されているとしてジオパークの認定を受けたのが2016(平成28)年。その陰には、地域住民による啓発や保全の活動、次の世代へ受け継いでいこうとする人たちの努力がありました。また、それは使命なのだと考える地域住民が増えているといいます。

■住民が支えたジオパーク認定-下北ジオパークサポーターの会会長・小田桐隆夫さん

下北ジオパークサポーターの会会長・小田桐隆夫さん

○草の根運動から150人のサポーターの会へ
むつ市で石材店を営む小田桐隆夫さんは、下北ジオパークが認定される2年ほど前から推進活動を担ってきたサポーターの会の創設者です。活動のきっかけは、「地域住民が認知していなければ認定にならない」という理由で、2014(平成26)年の加盟申請が認定見送りになったと知ったことでした。「地域に暮らす自分たちが主体にならなければ」と一念発起でさまざまな業種の経営者約50人に声を掛け、ジオパークの勉強会を開くことから始めます。

小田桐さんは、自費で「下北ジオパーク構想応援隊」という横断幕もつくりました。加盟申請を前に急いでむつ市内の目立つ場所に看板も立て掛け、また、カメラを持って吹雪の尻屋崎の中で社員に横断幕を持ってもらい写真を撮ったり、大間崎で近所の人たちを集めて横断幕と一緒に写真を撮ったりと、様々な地域で住民の協力を得ながら活動をして歩いたといいます。小田桐さんは行政と一丸となって活動を推し進め、2016(平成28)年の下北ジオパーク認定の瞬間を当事者として見届けました。

それから6年。現在も団体会員59社と個人会員約150人のサポートメンバーとともに、変わらぬ努力で活動を続けています。

○ジオパークの取組が変えたもの
「ジオパークのため、地域を盛り上げなければ」という想いがいつも頭にあるという小田桐さん。本業を抱えながらの活動ですが、その原動力はどこにあるのでしょう。それは、亡き前むつ市長からジオパークのことをいつも聞かされ、志半ばで倒れたその想いを叶えてあげたかったからなのだそうです。

「今はジオの調査で知らなかったことをたくさん学び、自分も下北のことをわかってきました。歴史や地質など苦手な私が、今は勉強するのがおもしろくて。ほかの地元の人にも、外の人にも、この魅力をぜひ伝えていきたいと、思うようになったんですよ」と、小田桐さん。

一方で、「下北は海のジオサイトが多いから、海岸線がゴミだらけじゃいけないと清掃活動を続けているのですが、地元の方にも輪が広がり始めました。脇野沢の鯛島では、地元のボランティア団体ができたり、清掃活動では漁師さんたちも参加してくれたりするようになって、ジオサイトが前より綺麗になりました。参加してくれた方々の根本には、郷土愛があるのだと思います」と笑顔で話します。

「ジオパーク効果は、私を含めた地元の人にも、地域を見直す機会を与えてくれました」

脇野沢地区牛ノ首岬の沖合約800メートルにある、見た目がタイの形に似ていることから名付けられた「鯛島」

■住民とともにジオを未来につなぐ-むつ市ジオパーク推進員・田中誠也さん

今年4月からむつ市ジオパーク推進員として活躍している田中さんは、北海道の「十勝岳ジオパーク」、宮城県の「栗駒山麓ジオパーク」でそれぞれ3年間活動してきました。いずれも内陸部のため、海岸線まで広がる下北のジオにはかねてから興味を抱いていたと言います。

「日本列島を構成する主要な4つの地質(付加体、新第三紀の海底火山噴出物、第四紀火山、堆積平野)が下北半島にあるということが、他にはない大きな特徴になっています。海の豊かさに加え、半島を周遊するとさまざまな地質や地形を見ることができる魅力的なジオパークだと思います」と田中さんは説明してくれます。

ジオパークの活動は、「保護・保全」、「教育・研究」、「経済活動」の3つが柱。田中さんの主な仕事は、下北ジオパークを地域全体に広く浸透させること。未来の世代のために残していくための作業も重要な役目だと田中さんは言います。

「植生や動物、人々が築き上げてきた文化は、大地があったからこそできたもの。風景を通じて、そのつながりを見ることができるのが、ジオパークの醍醐味だと思います。大地の成り立ちについて知っておけば、見え方も変わってきます。」と田中さんは教えてくれました。

今年8月に開催されたジオキャンプにて、講義を行う田中さん
写真/下北ジオパーク推進協議会事務局

■ジオの余韻に浸りながら

支える人たちそれぞれの想いとともに、「下北ジオパーク」の今があることを知った貴重な時間。帰る前に、もう少しジオの余韻に浸っていたい…と、訪れたのは、約12万年前の海底が隆起してできた海成段丘「斗南ヶ丘」にある、「ミルク工房ボン・サーブ」。この場所は、下北を代表する酪農地です。ここでは乳牛の新鮮なミルクを使った乳製品が人気。一番人気は濃厚なソフトクリームですが、この日は、下北ジオパーク認定商品である「斗南丘牧場ののむヨーグルト」を。広大な斗南ヶ丘の大地を感じながら、鮮度が自慢のヨーグルトを味わうのは格別の体験でした。

広大な牧場の敷地で、斗南丘牧場ののむヨーグルトを

ジオパーク認定商品もまた住民でジオパークを支えようとする活動のひとつ。このほか「あまこいアピオス」や「下北(ジ)オでん」「まぐろ醤油煮」などがありますが、お二人の話を聞き、のんびりとヨーグルトを味わっていると、ジオパークは、悠久の自然と、今を生きる人々の手によって成り立つ素晴らしい財産であるのだと、しみじみと感じたのでありました。

〈執筆〉
グラフ青森 青森の暮らし編集部

\ この記事の著者 /

グラフ青森 青森の暮らし編集部

本誌は1975年の創刊以来、地域に住む人々の生き甲斐や思いを伝えております。将来に残したい文化や歴史、それを守る人々、地域を元気にしたいと活動する人、豊かな自然など、青森ならではの地域に根ざした内容です。
青森を知ることで豊かな青森につながれば、という願いもこめて発行しております。

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春日 一心(有限会社サンマモルワイナリー社員)
八戸市出身、むつ市在住

私が初めて下北に来たのは大学1回生の夏でした。地元の八戸市で気運が高まるワイン用ブドウの栽培開始を間近に見ていたことから、農学を学び地元に貢献したいと考え、県内の大学に進学しました。

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