2022-11-30

陸奥湾へ向かって風になろう!

佐藤 史隆 季刊あおもりのき発行人プロフィール

まさに絶景。釜臥山スキー場からのぞむ陸奥湾とむつ市大湊の市街地
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

<今回の深掘りキーワード>
「釜臥山スキー場」

「うわーっ!!」
釜臥山スキー場を初めて訪れ、リフトを降りてコースを振り返ったあなたは、思わず感嘆の声をあげてしまうことでしょう。ゲレンデの向こうに広がる陸奥湾の雄大な景色。海がこれほど近くに見えるスキー場は、全国を見渡しても珍しいものでしょう。実際にコースを滑走すると、まるで海へと吸い込まれるような、逆に、海面が迫ってくるような、そんな感覚があるといいます。
さあ、ウインタースポーツシーズン!今回は釜臥山スキー場について深掘りしてみました。

■釜臥山南東麓のスキー場

スキーやスノーボードの大会も開催されている釜臥山スキー場
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

釜臥山スキー場は、下北半島の最高峰、釜臥山(標高878.2メートル)の南東麓にあります。スキー場から大湊の街を挟んで、陸奥湾までの距離は2キロメートルほどしかありません。
ゲレンデの面積は約35万平方メートル。県内の鰺ヶ沢スキー場や岩手県の安比高原スキー場のような広さはありませんが、これほどまでに、海を近くに感じながら滑走できるスキー場は、県内はもとより、全国的にも珍しく、そこが最大の魅力といって良いでしょう。

■大湊海軍との関わりから生まれたスキー場

釜臥山スキー場は、県内屈指の古いスキー場です。
大湊には大湊要港部と呼ばれる大正時代からの海軍の基地があり、現在の釜臥山スキー場の場所は、もともと海軍のためのスキーの練習場でした。
文献によれば、1913(大正2)年11月にオーストリア式スキー15台が配布され、青森第5連隊から講師を招いてスキー訓練をしたのが始まりとされ、その翌年からはスキー陸戦隊も創設されています。
青森要港部のスキー活動は活発で、1915(大正4)年には、釜臥山で青森県初となるスキー大会を開催。また、1922(大正11)年に青森市新城で開催された青森県教育委員会主催の第1回青森県スキー大会では、大湊要港部選手が1~5位を独占する大活躍をみせました。さらには、1926(大正15)年、同じく青森市新城での青森県スキー連盟主催の第1回県下スキー選手権大会でも総合優勝を果たします。全国のスキー大会においても健闘するなど、青森県のスキー界を牽引する存在となりました。

1945(昭和20)年、太平洋戦争が終わると共に、大湊要港部のスキー訓練場は、市民に開放されました。その後は、地元大湊の人たちを中心とした市民が、生い茂った草を刈るなどスキー場の整備に協力し、現在のスキー場の基本形が作られていきました。
その市民参加の背景には、大湊に浸透しているスキー文化があったようです。
「今の子どもたちもそうだし、大湊出身者はけっこうスキーが得意なんですよ」
と、大湊で生まれ育ったむつ市スキー協会会長の祐川厚美さんは話します。
「海軍時代からのスキー文化もありますし、大湊は昔から、スキーになじみの深い地域なんです。子どものころは、冬の遊びといえばもっぱらスキーでした。子ども用の木製の板で、長靴をくくりつけるタイプのものです。みんなで雪の坂道を滑って遊んでいました。街のいたるところが、ちょっとしたスキー場みたいな感覚。登下校もスキーでした。今は、車通りが多くて、そうはいきませんが、学校でのスキー教室や大会も積極的に行われています」

今回お話を伺ったむつ市スキー協会会長の祐川厚美さん(左)と、むつ山岳会前会長の佐々木邦年さん

■プロから初心者まで楽しめる釜臥山スキー場

さて、現在の釜臥山スキー場のコースを紹介します。
ここには、上級者用、上級・中級者用、初級者用の3つのコースと、キッズゲレンデ、クロスカントリーコースがあります。
ゲレンデを下から紹介していきましょう。

釜臥山スキー場のコース図
(第1リフトの左側(青)が上級者コース、右側(赤)が上級・中級者コース、第2リフト(緑)が初級者コース)
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会ホームページより
キッズゲレンデのスノーエスカレーター
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

まず、センターハウスやレストハウスのあたりにあるのが「キッズゲレンデ」です。子どもたちを中心にスキーやソリで遊べる場所です。親子連れやスキーを始めたばかりの人におすすめです。動く廊下のようなスノーエスカレーターが設置されていて、子どもたちも喜んで乗っているそうです。

初級者コース
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

中腹からは「初級者コース」があります。初級者コースは、二人乗りができる全長約750メートの第2リフトで登ります。
この上にはまだ第1リフトがありますが、初級者コースからでも上記写真のような光景。絶景度は十分です! 滑って行く先が、まるで陸奥湾のように見えませんか?

スキー場の最上部からの光景。陸奥湾と右手に津軽半島をのぞむ
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

スキー場の最上部にあるのが、「上級者コース」と「上級・中級者コース」の2本のコースです。全長約610メートルの第1リフトで登ります。
天候が良い日には最上部から、西に津軽半島や岩木山、南に陸奥湾、八甲田、東に津軽海峡や尻屋崎灯台、さらに太平洋を見ることができる日もあるそうです。つまり、陸奥湾と太平洋と津軽海峡の3つの海を一望できるすごい場所なんです。

上級・中級者コースと釜臥山山頂
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

さらに特筆すべきは、最大傾斜35度の上級者コース。上級者でも足がすくむとさえいわれるコースです。
むつ山岳会前会長の佐々木邦年さんが上級者コースの特徴を教えてくださいました。ちなみに佐々木さんも大湊で生まれ育っています。
「釜臥山スキー場のコースは、地形をそのまま生かして造られていますが、特に上級者コースには、独特な起伏があって、その先が見えないというスリリングさがあります。また、ターンをする箇所がバンク状になっているところがあり、スピード感を楽しめつつも、滑走技術を要します。地元のジュニア選手たちはここで技術をあげているんですよ」
また、上級者コースが難しい人には、もう1本の上級・中級者コースの方をおすすめしているそうです。

リフトに乗ると、まるで空中散歩のよう
写真提供/特定非営利活動法人むつ市体育協会

このようにプロから初心者までが楽しめる釜臥山スキー場。運営する特定非営利活動法人むつ市体育協会では、「滑走はまるで、陸奥湾にダイビングするような感覚といっていいでしょう。遠いからか下北以外からのスキー客は少ないですが、時間をかけてここまで来る価値は十分にあるスキー場です」と多くの方に向けておすすめしています。

■最後に

オフシーズンの釜臥山スキー場(第1リフト最上部付近から)
写真提供/下北地域県民局

取材時はまだ降雪前でしたので、歩いてコースを登ってみました。ここは夏場は釜臥山の登山道のひとつでもあるそうです。やはり、眺めは最高です。陸奥湾に吸い込まれそう。
大湊沿岸には独特な地形の砂嘴があり、その先にはちょうど船が航行していました。

店主もおすすめのキャラメルタルト(360円)とアップルパイ(360円)

さて、大湊に行ったならばの立ち寄りスポットを。釜臥山スキー場からJR大湊駅まで車で10分程度。駅前通りに黄色い外壁が目をひく菓子店エチゼンヤがあります。
店主の成田力(つとむ)さんのおすすめは、大人の味だというキャラメルタルト。食べて納得。キャラメルの味わいが甘みよりも、ふんわりとした苦みで表現されています。なんと洗練された味わい。洋酒と共にいただきたいケーキです。レシピは、店主の息子の成田一世(かずとし)さんによるものなんだそう。一世さんは数々の国際賞を獲得した名シェフパティシエ。銀座の名店「エスキス」を経て、2020年に独立し、店を開店。そして今、六本木に新店舗の開店準備中とのこと。一緒に買ったアップルパイも、リンゴたっぷりでおいしかったです!

― 補足情報 ―
■釜臥山スキー場(むつ市大湊大川守44-5)
TEL/0175-24-1881
開設期間/2022年12月中旬〜3月中旬 期間中無休
営業時間/9時~21時 ※第1リフト、キッズゲレンデは16時まで
※積雪状況により変更となる場合があります。最新情報はこちら

\ この記事の著者 /

佐藤 史隆

季刊あおもりのき発行人

1972年青森市生まれ。青森高校、東海大学文学部卒業。帰郷後、地域誌「あおもり草子」編集部へ。2019年冬「ものの芽舎」創業。2020年12月あおもり草子後継誌として「季刊あおもりのき」を創刊。NPO法人三内丸山縄文発信の会(遠藤勝裕理事長)の事務局としても活動。2022年4月には、青森県の馬に関する歴史・民俗・産業などのあらゆる事象を研究するあおもり馬事文化研究会(笹谷玄会長)を立ち上げた。ちなみに佐藤家のお墓はむつ市川内にあり、毎年家族で墓参りをしている。

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桜田 さおり (ヤンチャン学園音楽部 部長) 青森県出身

私は高校3年生までむつ市に住んでいました。とても自然が豊かで学校の登校時間はいつも釜臥山を眺めていました。雪が降ればスキー場になり、春から秋にかけては山登りをして展望台まで登り。四季折々の姿をみせて私を楽しませてくれました。

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