2022-12-27

海とともにある町・大畑町の漁師たちの挑戦

グラフ青森 青森の暮らし編集部プロフィール

今年11月12日、大畑町漁港で「海峡ロデオ大畑」の主催で行われた「わいどのめぇーもの夕市」の様子。定置網で獲ったサケやマスなどを大きな水槽で釣って楽しむ子どもたち。

<今回の深掘りキーワード>
「大畑町と海」

坂井隆さんの自慢記事の舞台である木野部海岸は、下北半島の津軽海峡に面したむつ市大畑町にあります。大畑町は、かつて八戸市に次ぐイカの漁獲量を誇っていた町です。
イカ漁が盛んになる以前はというと、面積の約95%を森林が占めるこの町の産業は林業で、ヒバを産出することでした。平泉中尊寺の金色堂はこのヒバで建てられたほど盛んだったそうです。
今ではヒバ林は少なくなり、イカも以前ほど獲れなくなりましたが、大畑町では海や漁師と親しむ機会を提供したり、長い時間をかけて町の名産を育て上げるなど、町を元気にしようとする漁師たちの挑戦が続いています。

■100種類もの魚介類が獲れることが自慢

消波堤の磯により、砂浜が広がってきているという木野部海岸。

大畑町に到着後、まずは自慢記事の舞台、木野部海岸を訪れてみました。住民の話によると、消波堤という磯により砂浜海岸が広がってきて、昔の美しい姿に戻ってきたといいます。
その沖合はかつて、夜になると多くのイカ釣り漁船の漁火(いさりび)で幻想的なものでした。それは旅行者にとって旅愁を誘う光景だったようです。このイカ漁が盛んになったのは明治半ば頃からで、イカを追って山形県や新潟県などからたくさんの漁師たちがこの地にやってきたそうです。
「そうした漁師たちを〝旅漁民〟といって、県外からこの町に住み着いた人も多かったようです。〝佐渡衆〟とか〝庄内衆〟〝富山衆〟などと呼んでいたと聞いています」と話すのは元大畑町漁業協同組合の成田幸雄さん。
イカ漁が最盛期の夏、朝6時頃になると、50隻以上のイカ釣り漁船が漁港に帰ってきて、荷揚げの順番を漁船が列をなして並んでいたもので、漁港は活気にあふれていました。それに伴い、イカの加工場も増えていったのです。しかし、イカが獲れていたのは1978(昭和53)年をピークに、徐々に下降線をたどっていきます。

大畑町の海域は、沖合まで砂地が広がり、そこへ日本海から対馬暖流が入って来る津軽海峡と、太平洋側の親潮とが合流することにより豊かな漁場となっています。
「イカは減ってきていますが、この海域で今一番多く水揚げされているのはマグロなんですよ。それも100㌔以上のもので、ここの漁港に水揚げする漁船が年々増えています。それに次ぐのがサクラマスやサケ、トキシラズ、マスノスケなどのサーモン類です」と大畑町漁業協同組合では話します。
さらに、この漁港に水揚げされる魚種は100種にも及び、砂地ということもあってカレイやヒラメ、ミズダコの漁獲量も多いといいます。
「これだけ魚種が多いのは、県内でも珍しいのではないでしょうか。マグロは東京の市場へ、それ以外はむつ市内のスーパーマーケットなどに活魚や鮮魚として出荷されます。とにかくここで獲れる魚類は、脂がのって美味しいんです」と同漁協では自慢します。

■大好評の漁師体験ツアーや釣り大会

イカの水揚げが減って、今ひとつ活気が無くなった大畑町。これでは町がますます元気が無くなってしまうと、立ち上がった漁師さんたちがいます。定置網漁の金亀水産の佐藤敏美さんと金城水産の濱田一歩さんの二人です。

町を元気にし、漁師の生き様を知ってほしいと会を立ち上げた佐藤敏美さん(左)と濱田一歩さん(右)。
このポーズを見ただけでも、漁師って格好いいと思う。

「わいど(私たち)が獲っている魚のおいしさや、漁師の思いを伝える何かいい方法がないものだろうか」と思いついたのが定置網漁の体験ツアーだったそうです。さらに話を聞いた大安寺の副住職である長岡俊成さんも加わり、様々な職種の人たちが集まり結成した会が「海峡ロデオ大畑」で、2018(平成30)年のことでした。船が波に乗って漁場へ向かう様を、魚を牛に見立てて「ロデオ」と名付けたそうです。
定置網漁とは、沿岸や沖合に近い場所に網を仕掛け、魚を誘導して獲る漁法で、近年は「資源管理型漁業」とか、「省エネ漁業」とも呼ばれ、持続可能な環境に優しい漁法として注目されているといいます。
海峡ロデオ大畑の会を結成したその年、春と秋に1泊2日の定置網漁獲体験ツアーが行われました。漁獲体験の後に、夜は自分たちで獲った魚料理を食べ、漁師の佐藤さんたちの話を聞き、参加者みんな大盛り上がりだったそうです。

定置網漁体験ツアーの様子。 写真/海峡ロデオ大畑

ところが参加者が増えだした3年目に新型コロナウイルス感染症の流行で体験ツアーができなくなり、それに代わるものとして「サクラマス釣り大会」を毎年春に2回行い、さらに定置網で水揚げした魚を直売する「わいどのめぇーもの夕市」も秋に開催してきました。
「釣り大会の参加者を募集したところ、今でもそうですが、電話が鳴り止まないほどなんですよ」と事務局を務める長岡さんは嬉しそうに言います。
定置網漁もそうですが、漁獲の多くはサーモン類で、「イカの町からサーモンの町にしていきたいんだ」と佐藤さんたちは強い思いを込めて話してくれました。いずれにしても、漁師さんたちの挑戦は始まったばかりです。

■誰もやったことのない外海でのサーモン養殖

海峡サーモンを持った北彩漁業生産組合組合長の濱田勇一郎さん。
写真/北彩漁業生産組合

サーモンといえば、今では広く知られている「海峡サーモン」があります。津軽海峡の荒波に揉まれ、旨味が凝縮されたサーモンを養殖する取り組みは、すでに35年ほどの歴史を持っています。イカの漁獲量が減ってきたことと価格の低迷から、漁師さんたち有志7名で「育てる漁業ができないものだろうか」と研究会を発足したのが1989(平成元)年のことでした。
さらに、2003(平成15)年には研究会を解散し、北彩漁業生産組合を設立。
「昔から、この外海では獲る漁業しかできないと言われていました。それを敢えて育てる漁業に挑戦してきたんです」と話してくれるのは、同組合長の濱田勇一郎さんです。
しかし、これまでの道のりは試練の連続だったようです。ある年は台風に見舞われ生簀(いけす)がほぼ壊滅状態に、またある年は暴風で幼魚が逃げてしまうなど多難な災害に見舞われてきたのです。
「誰もやったことのないサーモン養殖でしたから、大きなハードルを越えなければならないことが何度もありました」と濱田さんは振り返ります。

6月から7月にかけて生簀から海峡サーモンが水揚げされる。
写真/北彩漁業生産組合

このサーモンは、ドナルドソンニジマスを淡水で2年間育て、11月に馴致(じゅんち)といって海水に慣れさせます。その後、約7ヶ月から9ヶ月間、津軽海峡の生簀で育て上げるのです。6月から7月に水揚げされるのですが、いかに生かし続け、良い味に仕上げるかが一番難しく、餌にも試行錯誤をしてきたそうです。
水揚げされたサーモンは、鮮度を保ち身のしまりも良いように、船上で血抜き処理をする「活〆(いけじめ)」をします。その海峡サーモンの味は、「食べた後味にこだわってきました」と濱田さんが話すように、脂はのっているがくどくなく、甘さがあってさっぱりとした味です。加工品はこれも試行錯誤を続け、現在は20種にもなっています。ふるさと納税にも使用され、たくさんの消費者から感想が送られてきているそうです。
「いつも消費者の方の意見に励まされ、それが我々のエネルギーにもなっています。これからも魚づくりに真摯に向き合っていかなくてはという気持ちが強くなっています。そして、もっともっと付加価値を高め、感動してもらいたいし、お客さんとのつながりを広めていきたいですね」と濱田さん。

脂が乗り、しかも甘さもあり食後感はさっぱりとした味の「海峡サーモン」。
海峡サーモン写真/北彩漁業生産組合

■漁業の町を感じる味

この海峡サーモンは町のお寿司屋さんで、また、温泉地奥薬研では「海峡サーモン丼」として食べることができます。とろりとして脂が乗り、噛んでいるうちにマスの香りがほんのりとし、またその丼を味わいに大畑町へ行きたくなります。

もうひとつ付け加えますが、イカの町としての名残に「いかすみラーメン」があります。これはイカのスミをフリーズドライにしてパウダーにし、それを麺に練りこんだもので、塩味のラーメンで食べます。麺には生臭さはなくコシがあって、さっぱり味のラーメンなのです。このいかすみラーメンもまた大畑町を感じた一品でした。

大畑で獲れた魚介類が入ったボリューム満点の「いかすみラーメン」。

― 補足情報 ―
■海峡ロデオ大畑(Facebook)
https://www.facebook.com/kaikyorodeoohata/
■「海峡サーモン」(ホームページ)
https://www.kaikyou.com/

\ この記事の著者 /

グラフ青森 青森の暮らし編集部

本誌は1975年の創刊以来、地域に住む人々の生き甲斐や思いを伝えております。将来に残したい文化や歴史、それを守る人々、地域を元気にしたいと活動する人、豊かな自然など、青森ならではの地域に根ざした内容です。
青森を知ることで豊かな青森につながれば、という願いもこめて発行しております。

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坂井 隆 (しもきたTABIあしすと 事務局長) むつ市出身

むつ市大畑町の国道279号線赤川台駐車帯から眼下に望む木野部(キノップ)海岸汀線は、緩やかな曲線を描きながらその終端を東方に伸ばしている。遥かその向こうには、林立する東通村尻屋周辺の風力発電施設が見える。

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