2023-3-1

もうひとつ見つけた!下北自慢

グラフ青森 青森の暮らし編集部プロフィール

横浜町のジャガイモ収穫の様子(YouTubeチャンネル「ナノハナポテト」投稿動画より)

<今回の深掘りキーワード>
「下北ならではの美味しいジャガイモ」

今回の下北自慢エッセイ♯20は横浜町の夕日のお話でしたが、下北の夕日といえば、私は大間町奥戸(おこっぺ)地区の赤石海岸から見える夕日の美しさも印象に残っています。
その奥戸で思い出したのが、大間町と横浜町に共通するもうひとつの下北自慢です。それは下北地方ならではのジャガイモ。「え!ジャガイモ?」と思うかもしれませんが、実はすごいジャガイモなのです。
この地方では、かつてどこの家でも自家用でジャガイモが栽培され、年間を通じて日常やハレの日に食べられてきました。この気候風土に適していたためで、先人たちはおいしく食べてきたに違いありません。生活スタイルは変わってしまいましたが、今も盛んに作られている下北のジャガイモ生産地を2つ紹介します。

■人気上昇中の「オコッペいもっこ」

ブランド化へ力を入れている「オコッペいもっこ」
(大間町役場提供)

奥戸と書いて「おこっぺ」と呼ばれる大間町の集落で、120年近くにわたり作り続けてきたジャガイモがあります。青森県が1905(明治38)年にアメリカから輸入した「バーモント・ゴールド・コイン」という品種で、県の奨励品種として県内各地で栽培されました。当時、白米が1俵で5円30銭だったのに対し、種イモ6個で3円と高価であったことから「三円薯(さんえんいも)」と呼ばれていたそうです。

戦後になってからは男爵薯やメークインが主流になり、この三円薯を作付けする農家はほとんどいなくなりますが、奥戸地区だけが作り続けてきたという経緯があります。
「なぜかといえば、ここの気候風土に合っていたんでしょうね。私はこの薯を食べて育ったようなものです。子供の頃はどこの家でも栽培し、農協へ出荷していたものでしたよ」と話すのは、生産者の田中國雄さん。

一帯の気候は6月から7月まで気温が20度を越すことは少なく、しかもヤマセという偏西風の影響が大きいのです。畑の土は黒土でサラサラして水はけが良いことが、この三円薯の栽培に適していたのではといいます。

奥戸集落のほとんどの家は半農半漁で、昭和の時代になると昆布漁が盛んになり、さらに若者はイカやマグロ漁へ移行していくなか、薯の栽培は自家消費だけになっていきます。そうした1989(平成元)年、むつ地区農業改良普及所が希少価値のある純粋の品種であることを証明。町の特産品にしようと、2013(平成25)年に振興協議会を立ち上げ、「オコッペいもっこ」と呼ばれていたこの薯のブランド化と販売に力を入れ出します。

地元の中学生が毎年地域学習として収穫体験をしている。
(大間町役場提供)

「地域の伝統野菜として作ってきて、これ以上減っていくのは寂しいという生産者の思いが町を動かして協議会を立ち上げたんです。今では行政と一緒に販路の拡大や、中学生の地域学習として収穫体験などの活動をしています」と生産者でもあり、株式会社あうぷの代表取締役でもある松原俊逸さんは話します。

気になる味ですが、煮えやすく茹でると粉をふき、食感はホクホクでサラッとして程よい甘みがあります。料理にはオールマイティだそうで、松原さんに言わせると、ちょっとだけ焼いた塩辛を乗せて食べるのが一番美味しいのだとか。

現在、オコッペいもっこの生産部会会員数は8名。約12トンの生産量のうち田中さんと㈱あうぷの出荷が半分を占めます。10年ほど前にはイオンの「フードアルチザン(食の匠)」でも扱われるようにもなりましたが、多くの需要に応えるには生産量が足りないのだそうです。

田中國雄さん(右)と松原俊逸さん(左)

■ポテトチップス原料となっている横浜町産のジャガイモ

「春になると見渡す限り菜の花畑が広がりますが、その広さと同じ面積がジャガイモ畑なんですよ」と、開口一番話してくれるのは横浜町にある坂下農園代表の竹内圭史(たけうちますふみ)さん。
横浜町といえば菜の花畑がよく知られていますが、実は、連作障害対策としてジャガイモと輪作で植え付けされているのです。作付面積は約100ヘクタール(東京ドーム21個分)もあり、県内一のジャガイモ生産量を誇ります。そして、そのなかで竹内さんの作付面積は約20ヘクタールで、町内に30軒ほどあるジャガイモ農家の5分の1の面積を占めています。

横浜町でジャガイモ農家を営む竹内圭史さん

「私が農業に取り組みだしたのは10年ほど前から。それまでの20年間は四国で家庭を持ち働いていました。父が病気で倒れたのをきっかけに、横浜町に戻って跡を継ぐことを決心したんです」と竹内さん。
そう決断したからには、他の人には負けたくないという思いで規模を拡大し、栽培技術も勉強してきたそうです。自動運転の大型機械も導入するなど、農業生産の効率化を図ります。そんな農作業の様子をユーチューブで発信。「見てくれた人が『頑張っているんだなあ』と感じてくれたら、やりがいがあるんじゃないですか」と笑います。

農作業の様子を発信する竹内さん
(YouTubeチャンネル「ナノハナポテト」投稿動画より)

この地域でジャガイモの栽培を始めたのは40年ほど前から。ホタテ養殖と畑作を兼業する半農半漁の家が多く、漁業の空いた時期には手間がかからないジャガイモの栽培が適していたそうです。作付けが始まるのは4月で、収穫は8月。この地域の土質は水はけの良いミネラル豊富な黒土で、生育期間の寒暖差が大きいため、甘みを増したジャガイモができるのだといいます。 品種はトヨシロやオホーツク、メークインなどで、前者2品種はポテトチップスで知られるカルビー株式会社との契約栽培で作られています。竹内さんによれば、カルビーには「ジャガイモ収穫前線」というのがあって、春に九州から始まり、夏は本州、秋は北海道へと収穫地が北上していく様子をいいます。8月、9月のポテトチップスは、この横浜町のジャガイモが原料になるのだそうです。

横浜町産のジャガイモを原料としたポテトチップス

「袋の裏にはどこのジャガイモかプロフィールがわかるようになっていて、それも嬉しいですね。横浜町のジャガイモは品質が良く、美味しいのだと自信を持って栽培しています。できればブランド化していきたいですね」と胸を張って竹内さんは話します。

■横浜町「湧水亭」で味わうコロッケ

湧水亭
とうふコロッケ

横浜町産のジャガイモは、デンプンが豊富でホクホクして甘みもあるのが特徴で、先人たちは薯からダシが出るからと、味噌汁などの汁物には必ずジャガイモを入れて食べてきたそうです。
一度はこの町のジャガイモを食べてみたいと思いながら、国道279号線沿いにある「湧水亭」という豆腐店に立ち寄ってみました。大豆にこだわった豆腐はもちろんのこと、なかでも「おからドーナツ」が観光客に人気の店ですが、ふと目に入った「とうふコロッケ」(1個130円)。なんと、横浜町産のジャガイモを使っているというのです。
「最初、北海道産のものを使ってみたんですが、思ったような味にならず、地元産のものにしたところ、豆腐との相性がピッタリでした。ジャガイモが美味しいんです」と店主の小川紀(はじめ)さん。
買って食べてみると、豆腐とジャガイモの深い味わいで、食べるほどに甘みとコクが感じられ、何個でも食べられるおいしさなのです。
今回「オコッペいもっこ」にしても、横浜町のジャガイモにしても、私にとっては大きな発見でした。

― 補足情報 ―
■「オコッペいもっこ」についてはこちらへ(株式会社あうぷ)
https://shimokita-aap.jp/
■ナノハナポテト(竹内圭史さんのYouTube)
https://www.youtube.com/@user-kb5lm7lt8l/featured

\ この記事の著者 /

グラフ青森 青森の暮らし編集部

本誌は1975年の創刊以来、地域に住む人々の生き甲斐や思いを伝えております。将来に残したい文化や歴史、それを守る人々、地域を元気にしたいと活動する人、豊かな自然など、青森ならではの地域に根ざした内容です。
青森を知ることで豊かな青森につながれば、という願いもこめて発行しております。

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岩田 広行 (よこはまSUN*SUNプロジェクト 代表) 横浜町在住

私は横浜町に住み54年になります。専門学校に通うため青森県を離れた以外、ほぼ青森県内から離れたことはありません。小さなころから慣れ親しんでいるこの横浜町ですが、夕日が観光資源になると考えたことはありませんでした。

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