2021-12-27

豆知識で知る神秘の宇曽利山湖

佐藤史隆 季刊あおもりのき発行人プロフィール

恐山の岩場から宇曽利山湖をのぞむ

<今回の深掘りキーワード>
「宇曽利山湖」

霊場恐山のごつごつとした岩場から立ち上る白い煙、カラカラとまわる風車。あたり一帯には硫黄の臭いが漂います。人はここを地獄と見立て、逆に湖面美しい宇曽利山湖とそれをとりまく白砂の浜を極楽浄土と見立てました。
今回のテーマは「宇曽利山湖」です。このサイト名は「下北のヒミツ」。これまでいろいろなテーマを深堀りしてきましたが、宇曽利山湖こそ、知られざるヒミツが満ちているように感じます。

■湖名はアイヌ語が語源

青森、岩手、秋田の北東北地方には、アイヌ語を由来とする地名があり、中でも下北半島に多いと言われています。
実際、江戸時代の遺跡である東通村の大平(おおだい)貝塚からは、北海道アイヌが漁に使っていた道具と形状が類似する回転式離頭銛のような、北海道のアイヌ文化とのつながりを示す遺物も出土しています。宇曽利山湖の「宇曽利」もそうで、『下北半嶋史』(昭和27年初版発行)には次のように記されています。
「宇曾利の郷名も亦蝦夷語のウソロ、湾又は入江の意に出づるもので、オシヨロ(忍路)、ウスリ(鳥蘇里)も同一意義である。」※アイヌ語と蝦夷語については諸説あるが、『下北半嶋史』では同義語として扱っている。
ウソロ(ウショロ)は、「くぼみ」を示す言葉でもあります。この言葉が、ウソリ(宇曽利)だけではなく、オソレにも変容して恐山の語源となったとも考えられています。
ちなみに、アイヌ語関連ではありませんが、宇曽利山湖から流れ出る唯一の河川、正津川の「しょうづ」は、三途の川の「さんず」が訛ったものという説があります。

■宇曽利山湖の理由はわからない不思議な話

恐山には数々の不思議な話があります。インターネットで検索すると、真偽はともかくも幽霊などオカルト系の話題も出てきます。ふと、筆者の父から聞いた話を思い出しました。学生時代(70年ほど前)に、夜の宇曽利山湖の湖上をキラキラと舞う不死鳥のような鳥を見たというのです。これはまさしくUMA(未確認動物)!! と、未知の魅力に子供心にわくわくしたものですが、吹き出した硫黄成分と何らかの光が織りなしての現象ではないかと推測しています。あくまで私の推測ですが。

宇曽利山湖の岸べ

オカルト話はさておき、自然現象の不思議として、長年にわたり下北地方の民俗や歴史を研究された民俗学者の森勇男さんは、1999年発行の『あおもり草子』の中で「宇曽利山湖の湖水は海とは全く関係がないのに、海の干満のように湖水の干満が見られる」と記しています。
一般的に、海と近接していない湖の場合、潮汐はほとんどなく、ある物理学者の検証によれば、日本最大の湖である琵琶湖ですら、「風の影響による水位の変化はあっても、潮汐はないに等しい」のだそうです。山に囲まれた宇曽利山湖で本当に潮汐があるとしたら、その理由はなんなのでしょう。とても不思議な話です。

■世界で一番 酸に強い、宇曽利山湖のウグイ

不思議といえば、宇曽利山湖のウグイの話は欠かせません。
宇曽利山湖の水質は、pH値が約3.2~3.8という強酸性。湖の水質としては異常値です。
一般的に、水は中性でpH7。海水は弱アルカリ性でpH8。酸性では、ブラックコーヒーがpH5で弱酸性。食酢や梅酒がpH3に該当します。つまり、宇曽利山湖の水質はまるで酢なんです。
魚に限らず普通の生物は生きられない環境で、ここに棲む唯一の魚類がウグイです。ただし、他の地域からウグイを連れてきて放流した場合、この環境では2時間以内に死んでしまうのだといいます。

浅虫水族館でのウグイの展示

青森市の浅虫水族館に行くと、「世界一酸に強い 宇曽利山湖のウグイ」と題し、宇曽利山湖付近の小川から採取したウグイを見ることができます。展示の水槽は強酸性にすると壊れてしまうため、淡水にしているそうです。そういう意味でも宇曽利山湖のウグイは恐るべし。
強酸性の水の中で生きている秘密は、えらにあるそうです。過酷な環境に適応できるような独自の進化を遂げていたのです。

■おまけ・・・と言ってもすごい話。世界品質「恐山の金鉱床」

前出の1999年の「あおもり草子」では、森勇男さんはこんなことも書いています。
「平成二年頃から通産省地質鉱物資源部の調査発表によると、恐山の金は最高四百三十六グラムが検出されたという。日本で最高の含有量を誇る鹿児島の菱刈鉱山の最高百六十二グラムをはるかに越えており、いま恐山の金は大いに注目されている。」
その後、2007年に、地質学的にみた日本の貴重な自然資源を選定する「恐山の金鉱脈」が選定されていることからも、恐山には高品質の金鉱が存在することは間違いありません。
信仰の山であり、産業的な採掘が進められることはないと思われますが、死者の魂が集まるというお山の地下で、そんな高品質な金鉱が生成されていたとは、なんとも不思議な、ロマンのようなものを感じるお話です。

■最後に

夕景
  写真提供/青森県下北地域県民局

恐山は雪深く、11月から4月いっぱいまで閉山しており、訪ねることができません。暖かい季節になったら、今回の「かだらせろ!下北自慢」のエッセイで紹介されている恐山、宇曽利山湖をとりまく自然を楽しみたいものです。
恐山ビールを飲みながら、春を待ちます!

《宇曽利山湖》
恐山火山によるカルデラ湖で、下北半島唯一の自然湖。第四紀(約260万年前~現在)の約48万年前から継続する活火山で、湖底から噴出している硫化水素は火山活動の証し。
面積 2.68平方キロメートル(南北約1.5キロメートル、東西約2キロメートル)
最大水深 23.5メートル
湖水面の高さ 標高214メートル

■参考文献
『下北半嶋史』『むつ市史』『下北文化誌』『あおもり草子119号』

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\ この記事の著者 /

佐藤史隆

季刊あおもりのき発行人

1972年青森市生まれ。青森高校、東海大学文学部卒業。帰郷後、地域誌「あおもり草子」編集部へ。2019年冬「ものの芽舎」創業。2020年12月あおもり草子後継誌として「季刊あおもりのき」を創刊。書籍文化の醸成にも本腰を入れるべく、2021年夏に「ものの芽双書」を立ち上げる。NPO法人三内丸山縄文発信の会事務局としても活動。ちなみに佐藤家のお墓はむつ市川内にあり、毎年家族で墓参りをしている。

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原 英輔(下北ジオパークガイドの会 会長) むつ市在住

日本有数の名所ビッグネーム「霊場恐山」。
山門、正門をくぐると「地獄」の景観が広がります。「地獄」を抜けると白い砂浜「極楽浜」があります。その水辺から広がる湖が「宇曽利山湖(うそりやまこ)」です。