下北人SHIMOKITA-BITO

川内の土と木を活かして

むつ市川内町、むつ市陶芸センター。ここで、地元の土を使って生み出される素朴な陶芸作品が「宇賀焼」だ。
陶芸センターは、川内川渓谷の遊歩道入口にある。下北半島の中で、山の自然の美しさを最も感じられる場所と言えば、川内川渓谷だろう。春から夏は新緑、秋には紅葉が、渓谷を美しく彩る。川では見事な滝が流れ落ちる。遊歩道が4.4kmにわたって整備されており、渓谷にかかる橋の上からも絶景を楽しむことができる。

陶芸センターは誰でも気軽に入ることができ、宇賀焼の陶器の購入や、工房を見学できる。入り口からすぐの場所に作品が並んでいる。素朴な色合いの壺から、鮮やかな色の湯飲みまでさまざまだ。

「宇賀焼」の名は、川内町にある古い地名に由来する。町では、室町時代から桃山時代の古い陶磁片が多く出土し、船で他の地域から持ち込まれたものだと考えられている。その船が寄港した湾岸部を「宇賀浦(うがのうら)」と呼び、その名にちなんで宇賀焼と命名された。命名されたのは1985年のことだ。

「宇賀焼は、始まってまだ30数年。昔からの陶器の産地は数百年かけて特徴を出してきているわけですから、ここはまだまだ特徴が出ているとは言えません。研究しながら、失敗しながら、作り続けています。」
こう話すのは、むつ市陶芸センター職員で、陶芸家の笹原明仁さん。

宇賀焼が始まった当初から行っているのが、川内町の赤松の薪を使って高温で焼き上げる「焼き締め」による陶器づくりだ。川内の土と、川内の赤松が基礎となって、ここだけでしかできない風合いの陶器が仕上がる。

最近は「釉薬(うわぐすり)」を使った作品も多く作り出されている。素焼きの陶器に、川内の土や木灰を混ぜて作った釉薬を塗って焼き上げる。青や白など、鮮やかな色の作品を生み出すことができる製法だ。
焼き締めの作品か釉薬がけの作品かに関わらず、川内の土を活かして川内で生み出される作品が宇賀焼。まだまだ試行錯誤の途中で、成長を続けている陶芸だ。

ゼロから始まった川内の陶芸

市町村合併前の旧川内町時代、生涯学習の一環として、陶芸の活動が始まった。川内町湯野川地区に、工房と本格的な窯を備えた施設「陶芸の家」が建設された。施設ができたので、陶芸を活かしたまちづくりのために、専門家を配置することになった。そこで手を挙げたのが、当時中学生の笹原さんだ。
町内の中学を卒業した笹原さんは、焼き物の本場である愛知県常滑市で修行した。昼間は工場の仕事をして師匠を手伝い、夜はアトリエで陶芸の修行をさせてもらった。

それにしても、中学校を卒業してすぐに、まだ地域に根付いていない陶芸を生業に決めるとは、思い切ったものである。
「何か巡り合わせの様なものを感じて、思い切って飛び込んだ。今考えると大胆ですよね。まあ、いずれは、何か手に職をつけて地元で働きたいと思っていたんです。」
と笑う笹原さん。常滑市では、笹原さんと同じように陶芸の修行をする人がたくさんおり、日本全国はもちろん、デンマークなどの海外からも来ていた。本場で一通りの作業を学んで、1985年に川内町に戻り、作陶活動に入った。

笹原さんが川内町に戻ると、まず山へ行き、陶芸に適した土を探した。スコップで掘った土を持って帰って、焼いての繰り返し。
「最初はかなり歩きましたね。焼いてみたら予想と違って使えなかった、というのもかなりあります。今は、粘土に使う土、釉薬の原料に使う土と、何か所か場所を決めています。」
活動が続くうちに、陶芸の家では手狭となったので、1989年には現在の場所「川内町陶芸センター」に移転し、2006年に市町村合併に伴って、むつ市陶芸センターと名を変えた。

ひたむきに陶芸と向き合う

笹原さんは多い時には2日間かけて70個の作品を作り出す。そして、月に数回、陶芸教室が開かれており、希望があれば陶芸体験もできる。
陶芸センターには2つの窯がある。1つはガスの窯で、釉薬をかけた陶器を焼き上げる。もう1つが薪を使う窯で、焼き締めの作品はこちらを使う。薪を使う窯に火が入るのは、年に1回程度だ。

「薪を使う窯は大きいので、入れる作品を、300個とか、粘土で作るだけでも時間がかかる。焼くのも夜通しで60時間くらい焼くので、かなり体力が要ります。薪のくべ方、温度によって、作品の色が変わってくるので、難しいです。窯の中の置き場所でも色が変わるし、開けてみないとわからない。」と笹原さん。

笹原さんの説明は簡潔で、無口な職人の雰囲気を感じさせる。といっても、気難しい感じではなく、こちらから質問をすると、笑顔で教えてくれる。写真撮影のためにろくろで作品を作ってほしいとお願いすると、快く応じてくれた。
土を練るところから始め、ろくろを回して作品を作る。作業中は真剣な眼差しで粘土に向き合う。その手際から、日々の仕事を感じ取ることができる。言葉で語るより、指先で語るのが陶芸家だ。

「宇賀焼」確立へ、どこまでも研究は続く

笹原さんに、自信作はどれかと尋ねてみた。
「最近はこれですね」と見せてくれたのは、赤茶色のベースの上に、薄く白い色が乗った湯飲みやコップだ。
「化粧土といって、赤い粘土の上から白い粘土をかけるんです。それから、還元というやり方で焼きます。」

焼き方には、酸化焼きと還元焼きがある。酸素が十分にある状態で焼くのが酸化焼き、酸素が足りない窒息状態で燃くのが還元焼きだ。この焼き方で、仕上がりの色は全く違うものになる。笹原さんは焼き方を研究して、ほぼ同じ色が出せるように調節しているが、それでも、窯の中での作品の置き場所でも仕上がりの色が微妙に変わってくるという。
「乾き具合のタイミングで、崩れたり、化粧がはがれたりするんです。だいぶ苦労しました。温度や湿度を先読みして、経験しながらやっていかないと。」

笹原さんは1つ1つの作品を指しながら語る。陶芸は一朝一夕にできるものではなく、長い経験の積み重ね。まだまだ研究の途中だ。 「研究をさらに深めて、次につながるような作品、または技術、釉薬の調合、そういうものを生み出して、残していきたいですね。」 と笹原さん。その指先から、今後どのような作品が生み出され、まだ発展途上の「宇賀焼」がどのように確立していくのか、ぜひ注目してほしい。

Text : 園山和徳  Photograph :ササキデザイン 佐々木信宏

むつ市陶芸センター


所在地
〒039-5201 青森県むつ市川内町獅子畑128−1
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電話番号
0175-42-2115